- 2025年4月21日
膝前十字靭帯損傷の治療とリハビリについて

前十字靭帯(ACL)は、膝関節の安定性を保つ重要な靱帯です。特にスポーツをする人に多い損傷の一つであり、適切な治療とリハビリが必要です。今回は、ACL損傷のメカニズム、診断、治療、リハビリのプロセス、スポーツ復帰までの流れについて、ご説明いたします。
前十字靭帯損傷とは
- 膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨で構成される。
- 靭帯は膝の安定性を保つために重要で、特に前十字靭帯(ACL)は大腿骨と脛骨をつなぎ、膝が過度に前方へ動くのを防ぐ役割を果たす。
- 半月板は、膝関節の衝撃を吸収し、スムーズな動きをサポートする。
症状と診断方法
- 典型的な症状
- 急な方向転換やジャンプの着地時に「ブチッ」と音がすることがある。
- 直後に膝が腫れ、強い痛みを伴う。
- しばらくすると歩行が可能になるが、膝の不安定感を感じる。
- 階段の昇降やスポーツ動作で膝がガクッとする(膝くずれ)。
- 診断方法

- 徒手検査(Lachmanテスト、前方引き出しテスト):徒手テストは医師が自身の手で診察する触診です。整形外科医であってもスポーツに精通する経験豊富な医師の診断が重要です。当院では多くのスポーツ選手の治療経験があることから、的確な徒手検査による初期診断と迅速なMRI診断を行って安心していただけるよう心がけています。
- 画像診断(MRIによる靱帯の断裂確認):MRI診断が必要と判断した場合には当院の関連クリニックである、あんしんクリニック(三宮)ですぐにMRI撮影が行えるように手配いたします。早ければ当日に撮影、診断ができ、ケガの不安を長引かせることのないよう早急に治療の方向性をお伝えしています。
損傷の種類と違い
- 完全断裂:前十字靭帯が完全に切れている状態。多くの場合、手術が必要。
- 部分断裂:一部の前十字靭帯の線維が残っている断裂。リハビリで回復することもあり、運動復帰の過程で膝崩れが生じないか、注意深く診ていきます。
前十字靭帯損傷の検査と診断
画像診断の重要性
- X線では骨折の有無は分かるが、靭帯損傷は診断できないため、多くはMRIが必要。
- MRIでは靭帯の損傷状態や半月板や側副靭帯の合併損傷の有無も確認できる。
診察でのチェックポイント
- 怪我の瞬間の状況(ジャンプの着地、急停止、衝撃の有無など)。
- 膝関節の不安定感や腫れの程度。
- 歩行時の違和感や痛みの有無。
前十字靭帯断裂の治療法
前十字靭帯断裂の手術について
- ACL断裂は自然治癒しないため、スポーツ復帰を目指す場合は手術が必要。
- 手術では、患者自身の腱(ハムストリング腱や膝蓋腱の一部)を移植して再建します。
前十字靭帯再建手術の流れ
- 術前リハビリ:術後のリハビリ(Accelerated Rehabilitation)をスムーズに行っていくために術前からリハビリを行い、“動く筋肉”に戻しておくことが非常に重要です。
- 関節鏡視下手術(約1.5時間)
- 入院(約3~5日)
- 松葉杖歩行(約2週間)
- リハビリ開始(手術直後から):手術翌日から手術した膝関節を動かしていきます(Accelerated Rehabilitation)
- 軽い運動開始(術後3〜6ヶ月):経過に問題なければ術後3~4か月の時点でジョギングを開始します。
- 競技復帰(術後6〜12ヶ月):筋力の回復程度や競技の特性を考慮して復帰を見定める必要があり復帰には個人差があります。早ければ6か月で復帰となります。
手術を行わない場合、膝の不安定性が続き、日常生活でも膝が崩れる可能性があります。また、長期的には半月板や軟骨に過度な負担がかかりそれらが損傷するため、変形性膝関節症に進行するリスクが高まります。
半月板損傷との関連性

- ACL損傷の約50%は半月板損傷を伴うとされている。
- 半月板が損傷すると、膝のクッション機能が低下し、膝関節の摩耗(変形)が進む。
前十字靭帯と半月板の同時損傷による合併症
- 変形性膝関節症のリスク増加
治療法とリハビリ方法
- 軽度の場合は保存療法(安静、アイシング、理学療法)
- 重度の場合は関節鏡手術による縫合や部分切除が必要