骨粗しょう症における
骨折予防治療の重要性

高齢化社会では骨粗しょう症という病気が「骨が弱くなり骨折しやすくなる病気」として認識されていますが、骨折が治癒しても後遺症として腰痛や歩行能力の低下が顕著に生じている現実や生活レベルの低下を日常の外来診療で強く感じます。骨粗しょう症を「骨の老化現象」と考え、病気とは見なさず、とくに治療をしない方が多くおられます。ここで重要なことは、完全な老化現象であれば一旦減ってしまった骨の量は戻らないことになります。しかし治療行えば、年齢とともに骨の量が減少することに歯止めをかけ、骨量を維持することで将来の骨折の可能性を大きく減らすことができているのです。その意味では骨粗しょう症治療薬は高齢者にとって非常に画期的な治療であると考えられます。

高齢者の慢性腰痛の大きな原因でかつ初期X線では見逃されやすいのが骨粗鬆(しょう)症による腰椎圧迫骨折です。骨折が治っても、圧迫された形に変形して治癒(変形治癒)が生じてしまう事が多いのです。
その結果、

  • 腰が曲がってしまう
  • 慢性的な腰痛(5分も歩行すると臀部がダル痛くなり歩き続けることができない)
  • 台所で10分も立っていられない(腰がダルくなり座ってしまう)
  • お腹が圧迫される感じがあり食事が入らない

といった様々な腰痛の症状が続いてしまい生活活動のレベルが低下してしまうのです。
内科の医師が様々な合併症を予防するために高血圧、糖尿病、高脂血症を治療するように整形外科医は全力で骨粗しょう症による骨折を予防、早期の治療介入を行う必要があります。

骨粗しょう症検査

骨粗しょう症は骨密度を測定することでわかります。実際の骨密度を測定するにはX線による骨密度測定装置(DEXA)を使用します。測定する部位によっても数値が異なってしまうことが多いため、最も骨折祖生じやすい腰椎や大腿骨頸部を測定できる全身型DEXAが推奨されています。当クリニックでも全身型DEXAで測定しています。

骨密度は原則として、腰椎または大腿骨近位部(頚部)で測定し、低い方の値を採用します(骨粗鬆症ガイドライン)。健康診断などで踵(かかと)で測定する骨密度は超音波による計測はあくまでも参考値ですので精査必要とされた方はご相談ください。

検査時間は5分程度なのです。検査結果についてもわかりやすく説明することを心がけていますのでお気軽にご相談ください。

骨密度測定装置(DEXA)使用イメージ画像

骨粗しょう症の治療

骨粗しょう症治療には骨粗鬆症学会が提唱する骨粗鬆症ガイドラインが存在します。
骨塩定量装置による骨密度の測定、骨粗しょう症の診断、予防的治療(内服薬、注射薬、適度な運動)が必要です。骨粗しょう症が原因となる腰椎圧迫骨折は複数の骨が連鎖的に骨折してしまう傾向があるのです。そのため、既に骨粗しょう症性骨折の既往(過去に骨折歴)がある方は二次性骨折(最初の骨折に続いて生じる骨折)の予防が最重要となります。

治療薬とその作用機序

骨は幼い頃から同じ骨がずっと残っているわけではなく、常に古い骨はなくなる(骨吸収)一方で新しい骨がつくられる(骨形成)といった骨代謝が行われています。骨吸収を担う破骨細胞と骨形成を担う骨芽細胞の働きがこの骨代謝をに関与しています。骨粗しょう症治療薬はこの骨吸収と骨形成に作用する事で骨粗しょう症の進行を予防します。
年齢とともに骨吸収が強くなる(骨吸収>骨形成)ため、骨がもろくなっていきます。特に女性では骨形成を促進し、かつ骨吸収を抑制する作用のある女性ホルモン(エストロゲン)が減少してしまう閉経以降に骨密度が低下するため、50歳以降は骨粗しょう症の進行が男性に比較して顕著となります。

「なぜ骨が減るのか?-骨の新陳代謝」の図

骨吸収抑制剤

骨吸収を抑制するために骨の小さな孔に蓋をする用に作用するビスホスホネート製剤、女性ホルモン類似作用で骨吸収を抑制するSERM製剤、骨吸収を担う破骨細胞の働きを弱める抗RANKL抗体製剤、などの薬剤があります。

骨形成促進剤

骨芽細胞を増加させ骨形成を増やす作用がある副甲状腺ホルモン製剤(1回/週、または自宅で2回/週の自己注射)は実際に骨量を増やすことができる注射薬です。また、抗スクレロスチンモノクロナール製剤(1回/月)は骨形成作用を増強し、かつ骨吸収を抑えることで骨量の増加があります。両者ともに重傷骨粗しょう症と呼ばれる骨密度低下が著明な方や骨粗しょう症による骨折歴がある方、が対象となります。

活性型ビタミンD

小腸からのカルシウムの吸収を促進します。以前はこの薬剤が骨粗しょう症の第一選択薬として使用されていましたが、上記の薬剤の補助的な役割として処方する場合が多くなっています。

「お薬の種類・使用方法」の表

骨粗しょう症が原因となる骨折

腰椎圧迫骨折

第1腰痛圧迫骨折のX線。骨折した第1腰椎椎体は前方がつぶれ三角形に圧潰しています。骨癒合を得ても腰痛が残存しています。

背骨(腰椎や胸椎)の骨折で骨粗しょう症による骨折で最も日常的に目にする骨折です。尻もちをつくような転倒に伴う外傷性骨折や植木鉢などの少し重いものを持っただけで生じる骨折、また全く外傷の覚えがないのにいつの間にか腰痛が生じ骨折していた、といった「いつの間にか骨折」なども多く見られます。

背骨の骨(椎体)の前方が圧縮するように骨折するために圧迫骨折といいます。
この骨折は非常に厄介です。まず、来院時のX線でわからない程度の骨折が1週後のX線では明らかに圧迫(圧潰)が進行して診断される場合もあります。初期の治療(安静、コルセット固定など)を行うためにも早期のMRI診断が有用です。

また2か月程度で骨折が治癒したとされても椎体の変形が残存することで腰が曲がり、骨折した部位より下の臀部に“鈍い痛み”や“だる重さ”が残り、“短時間の立ち仕事や歩行が辛い”、“歩くとすぐに腰がだるくなって歩けない”、といった症状が残ることが多いのです。この症状が数か月にも及ぶことが多く長期的に筋力を強化するリハビリが必要となります。

大腿骨頚部骨折

骨粗しょう症による骨折の一つとして大腿骨頚部(太ももの付け根の骨折)が骨折すると、本人の意思および全身状態にもかかわらず、寝たきりを回避するために早急に手術を行う必要があります。寝たきり状態になるとその患者様のご家族は介護や入所先の施設を探すことに奔走しなければなりません。この事実はご家族の普段の生活をも一変させてしまいます。そして一旦寝たきり状態になると生命予後も悪くなってしまうのです。患者様自身にとっては骨折を生じて寝たきりになることも怖いのですが、それに伴う家族の介護の問題も非常に憂慮すべきこととなってしまいます。一回の転倒で本当に患者様および家族の人生が、ガラッと変わってしまうかもしれないのです。そのためにも、もちろん転倒予防の筋力訓練は大切ですが、転倒した際に容易に骨折をおこさないよう骨粗しょう症の治療を予防的に取り組むことが大切です。

橈骨遠位端骨折(手首の骨折)

転倒した際に手をついて手首の骨(橈骨)を骨折します。多くの場合、変形が強く、またギプス治療では変形が進行してしまうことが多いために手術を行います。この部の手術成績は良好です。ギプスで粘ったり手術をしなかった場合には骨折部が徐々に歪んで変形を残し、疼痛が残存する原因となってしまうことが多いため、比較的手術治療を選択される場合が多いのです。この部の骨折は、腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折と違って歩行能力を直接的に低下させることはないため比較的安定して診ていくことができます。

骨粗しょう症に関するよくあるご質問

本当にいったん減ってしまった骨が増えるのですか?

以前は、骨粗しょう症は、お肌が皺になったり髪の毛が白くなるように、老化だから仕方がないと思われてきたものです。しかし、適切な治療をすれば必ず骨の量 は増加するのです。すなわち、骨の病気なのです。だからこそ、早期からの治療が効果を発揮します。

運動をすれば骨の量は増えるのですか?

寝たきりで荷重のかからない骨は、急に骨の量は減ります。足の骨折で、しばらく(約一ヶ月)体重をかけなければ、若い人でも急激に骨の量は減るのです。すなわち、荷重のかかる運動や筋肉を刺激する運動は骨の量を必ず増やします。

牛乳が嫌いだから、骨が弱くなるのですか?もっと小魚を食べる必要があるのですか?

厚生労働省の示すカルシウム必要量が600mgとなっています。恐らく、それほど、日常生活の食事の中では不足していないと思います。当然、カルシウムをとることは重要ですが、最も大事な時期は、やはり成長期であります。この時期のカルシウムの不足は直接に関連すると思います。以前は、積極的にカルシウムを薬として投与していましたが、それが転倒時の骨折を予防するものではありません。

太陽を浴びることが骨によいと言われたのですが?

食べたカルシウムは腸から吸収されます。その時、必要なのがビタミンDなのです。そのビタミンを元気にし、よりカルシウムを吸収しやすくする効果が太陽の光にはあるのです。それゆえ、現在でも飲み薬として活性型ビタミンD3製剤を投与します。