膝の痛み

膝の痛みは、外来患者様の訴えのなかでは、腰痛の次に多いものです。
その大半は、加齢に伴う変形性膝関節症です。
「あなたは、年だからしかたがない。」
「太っているから、仕方がない。やせなさい。」
「運動不足だから、どんどん歩きなさい。」
との言葉を医者に言われて、落ち込まれる患者様が、多く来院されます。たしかに、老化や体重増加や筋力の低下が主な原因であることは間違いありません。他に考えられるのは若いころの外傷(ケガ)も考えられます。原因は一つではありませんが、老化に関しては、同年齢でも全く痛みのない人は沢山おられます。また、白髪や皺と違って、目に見えないため、病院で変形の進んだレントゲンをみせられて「加齢だからしょうがない」、と落ち込んでしまう患者様も多くいらっしゃいます。医師に運動とダイエットをするように、と言われても痛みのために運動ができずに、筋力低下や体重の増加の進行、に陥る悪循環を生じることになりがちです。運動やダイエットするにもまず痛みをとる治療が必要です。また、レントゲンでさほど変形がない膝でも加齢による変形と言われている場合も多くあります。実はこの場合には膝半月板損傷も疑う必要があります。突然痛くなった場合にはこの半月板損傷が強く疑われます。レントゲンでは映らないためにMRI撮影が必要となりますが、そのような判断をするにも膝関節の診療に精通していることが必要です。当クリニックでは、診察による診断、必要ならば関連病院でのMRI撮影(早ければ当日の撮影も可)、といったスムーズな診断が可能です。

膝の治療は大きく分けて、以下の4つの方法です。

  1. 日常生活の注意と痛みを伴わない運動療法の指導
  2. ホットパック、低周波などの消炎鎮痛療法、痛み止めやシップなどの投薬、膝関節内への注射
  3. 膝を安定させるためのサポーターや足の下の中敷(足底板)などの装具療法
  4. 以上のような、治療の効果がない場合では、関節鏡、骨きり術、人工関節置換術などの手術

変形性膝関節症

加齢や肥満などが原因となって関節が変性し、それによって様々な症状がみられている状態のことを「変形性関節症」と呼んでいます。その中でも非常に多くの患者様が悩まれているのが変形性膝関節症です。膝関節にある軟骨は、年を取るにつれて弾力性を失っていきます。運動などによって摩耗することもあります。こうした原因によって関節炎や変形が生じてしまい、膝の痛みに悩まされます。膝の痛みや炎症が悪化し、いわゆる"水が溜まった状態"となることもあります。

変形性膝関節症の症状

変形性膝関節症の初期症状は、動作の開始時に生じる痛みです。椅子やベッドから立ち上がるときに膝が痛むのですが、しばらく休むと痛みは治まります。その後、再び動き出したときには、最初のときほどの痛みは感じません。しかし、症状が進行するにつれて関節の曲げ伸ばしにも制限を感じるようになるため、階段の昇り降りなどがつらくなります。さらに進行すると、歩行中も痛みを感じるようになります。末期になると、安静時にも痛みがとれなくなり、膝関節の変形も目立っていくようになります。

変形性膝関節症によく似た病気(半月板損傷、大腿骨内顆骨壊死、炎症性疾患)

膝に痛みが生じる病気は、変形性膝関節症だけではありません。半月板損傷や大腿骨内顆骨壊死は発症の初期はX線上の変化も少ないため、誤って変形性膝関節症の初期と診断されている場合も多く見受けられます。そして半月板損傷の中でも、膝後面の内側半月後角部分の損傷はX線での変化がなく、またMRIにおいても診断がなされないケースも多く、放置することで大腿骨内顆骨壊死に至りやすい特徴があります。大腿骨内顆骨壊死は骨破壊が生じるため部分置換型人工関節置換術が必要になるケースが多くなります。X線で問題ないとされても、腫れと痛み(特に夜間の痛み)が強い場合には膝専門医の受診が必要です。

また、炎症が強く水が溜まりやすい疾患としては、リウマチ性膝関節炎、化膿性膝関節炎、痛風性膝関節炎、などがあります。こうした病気との鑑別をつけるためにも、膝の痛みを覚えたときはお早めに当クリニックをご受診ください。

変形性膝関節症の治療

変形性膝関節症の治療には、薬物療法と手術療法があります。初期の段階であれば薬物療法とリハビリテーションで対応します。痛みを抑えるため、消炎鎮痛剤や湿布、塗り薬を使用します。患者様によっては、膝関節内にヒアルロン酸の注射を行うこともあります。

痛みが強い患者様、関節の変形が進行した患者様の場合は、手術療法が必要になります。患部の骨を切って変形を矯正し、膝の内側にかかる負担を軽くする「高位脛骨骨切り術」、変形した部分を人工の部品で置き換える「人工膝関節置換術」があります。

変形性股関節症

変形性関節症のうち、股関節に生じる疾患が「変形性股関節症」です。脚の付け根にある股関節が痛くなり、初期段階では椅子から立ち上がるのがつらくなります。症状が進行すると、痛みが強まります。そのため、正座が困難になったり、足の爪が切りにくくなったり、階段やバスの乗り降りにも手すりが必要になったりします。こうした症状は変形性膝関節症でも起こりますが、変形性股関節症の場合は股関節部の痛みが強まります。

治療に関していうと、まずは薬物療法とリハビリテーションで対応します。専門医の指導のもと、生活様式を見直し、股関節の負担を減らしていくことが重要となります。そのうえで、症状によって鎮痛薬なども用い、QOL(生活の質)の低下を抑えるようにします。しかし、股関節の軟骨がすり減ってしまうと、これを元のように再生するのは難しいです。そのため、手術が必要になることもあります。

肩の痛み

肩関節は周囲の筋肉に影響を受けやすい関節です。関節周囲組織や筋肉が年齢とともに硬くなると四十肩、五十肩と呼ばれる肩関節が十分に動かない病態が出現します。肩関節内の筋肉(インナーマッスル)である腱板(特に棘上筋)は加齢や重労働とともにすり減るように傷んでくることが多く腱板断裂として痛みと挙上障害が発生します。また腱板断裂の状態は肩関節内の軟骨変形(変形性肩関節症)を生じることもあります。また急性に疼痛を生じる石灰沈着性肩腱板炎も時にみられます。
痛みとともに肩関節が十分に動かせない状態が続くと関節が硬くなり十分に動かせない、痛い、などの関節拘縮の病態を生じるため、疼痛コントロールとともに適切な時期にリハビリによる可動域訓練を行う必要があります。

肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)

加齢とともに肩関節周囲の組織や筋肉が硬くなります。ちょっとした肩周辺の痛みや姿勢不良により肩甲骨の可動性が少なくなり肩の挙上障害が生じます。リハビリが治療となりますが、夜間痛むなどの疼痛が強い場合には消炎鎮痛剤や関節注射などで同時に疼痛コントロールを行いながらリハビリを行います。

肩腱板断裂

肩関節内には肩が中心で回転するように調整するインナーマッスルがあります。これを肩腱板とよびますが、とくに棘上筋が加齢や重労働で擦り減るように薄くなっていき一部には断裂がみられている状態になっていることが多いのです。軽度の痛みなどで過ごせる場合も多いのですが、急に疼痛が強くなる場合や転倒などに伴い大きな断裂になる場合は腕が上がらなくなります。診断はMRIが有用です。肩関節注射などの疼痛コントロールとともにリハビリを行います。挙上困難が続く場合には関節鏡視下で腱板を縫い合わせる腱板縫合術が必要となります。

変形性肩関節症

肩関節内の軟骨がすり減って変形する病態です。関節が上手く動かなくなるために疼痛や挙上障害などの可動域制限がみられます。腱板断裂後に長期の経過で生じる場合や、骨折などの外傷後に生じることがあります。日常生活に大きな支障をきたす疼痛や可動域制限が生じる場合には人工肩関節置換術が必要になりますが、まずは疼痛コントロールとリハビリを行います。

よくあるご質問

以上に関してよりよく説明する代わりに、現場での患者様からよくある質問に答えます。

膝の痛みについてよくあるご質問

運動不足だから、よく歩くほうがいいのか?

体全身の健康のためには、歩行はいいことだと思います。しかし、痛い膝にとっては、かえって悪い結果につながります。理学療法士の指導の下に膝に負担をかけない運動を行うようにしましょう。(水中歩行、チューブトレーニング)

膝は冷やすほうがいいのか、温めるほうがいいのか?

このことは。患者様が実感されておられることが正しいのです。痛みが生じて期間が経てば、痛みをかばうことで関節周囲の筋肉が緊張してこわばった状態になります。この場合には入浴や保温サポーターにより膝を温めた方が痛みが和らぎます。膝を温めることで周囲の筋肉の血流を改善し、筋緊張をほぐす結果となるからです。しかし、痛みが生じ始めた時や慢性期でも運動しすぎたり歩きすぎたりして熱感がある場合は炎症が生じています。この場合には冷やしてください。冷やすことで消炎鎮痛効果が得られます。

温めなさいと、医者にいわれたのに、どうして冷たいシップが処方されるのか?

基本的には冷シップや温シップには、患者様が考えるほど、局所の温度を変化させません。冷シップの水分が冷感を、温シップの唐辛子成分が温感を感じさせるのです。さらに薄い茶色のシップもあります。基本的には、どれも経皮的消炎鎮痛剤が皮膚からしみこんで効果を発揮します。

前の病院では、診察のたびに水を抜かれましたが、水があるから痛むのですか?

膝関節のなかで軟骨が傷んだり、半月板が損傷することで軟骨が刺激され、その結果炎症が生じることが水がたまる原因になります。すなわち、水は痛みの原因ではなく結果(炎症による副産物)なのです。まれに、大量に水がたまることが、圧迫感を伴う痛みの原因になります。その際には、水を抜きます。しかし、完全に炎症が治まっていないために、再び水がたまります。このために、水を抜くことが癖になって水がたまるとの誤解をうむことがありますが、そうではありません。水は、適切な治療により自然になくなります。

痛み止めは一時的で癖になり、やがて効かなくなるのでは?

飲み薬の痛み止めは、シップと同様に、消炎鎮痛剤です。炎症の繰り返しは痛みを増幅し、局所の状態にも好ましくありません。炎症を鎮める手段として、痛み止めを飲むことは意義があります。炎症が継続している場合には消炎鎮痛剤を内服する必要があると考えます。しかし、胃腸障害の副作用に関しては、十分に注意する必要があります。
ただし、痛みが続いている場合でも初期の炎症による痛みから周囲の筋肉の緊張による痛みに変わってきている(膝の全体が痛い、脚全体が痛い、ダルい)場合があります。この場合には消炎鎮痛剤を内服するよりも運動療法による筋肉の緊張緩和、コンディショニングをしっかりと行う必要があります。痛みの性質は時期により異なるものなのです。

膝の注射は効くのですか?

注射に関しては、現在は主に2種類あります。一つは軟骨の保護剤のヒアルロン酸注射で、もう一つは炎症を抑えるステロイド注射です。基本的には、ヒアルロン酸でも十分に痛みは軽減します。ヒアルロン酸は軟骨を再生する効果ではなく、軟骨の磨耗を少なくし、痛みも十分にやわらげるのです。時に、炎症が非常に強い場合は一時的にステロイドも使用します。関節内にステロイドを注射することが、骨をぼろぼろにするとの誤解があります。全身の投与ではありませんので、そのようなデータは現在ありません。

膝の内側が、痛いのにどうして膝の外側から注射するのですか?

変形性膝関節症の痛みの場所は、ほとんどの人が内側です。日本人に横脚の人が多いのは、内側の軟骨がすりへってしまうからです。しかし、関節は一つの袋であり、内側が痛い人も、外側が痛い人も、膝蓋骨(お皿)の下が痛い人も広い(注射がしやすい)外側から注射するのです。注射した液は関節全体にいきわたります。膝の内側は隙間がなく注射には適していません。

健康食品で、軟骨が再生し痛みがやわらぐのか?

膝の痛みのための健康食品が世間に多数あります。欧米では効果があるとの報告もあります。このことに関しては、食べたヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等の軟骨成分がどのよう経路で軟骨にたどりつくのか?あるいは、全く別の原因で効果を発揮するのか等の研究成果がまたれます。口から摂取したヒアルロン酸やコンドロイチンは関節内の軟骨中のヒアルロン酸やコンドロイチンの増加にはつながらない、ということが証明されています。結論としては、効果を信じる方はサプリメントとして内服されることを否定しませんが、医者の側からこれらの内服をお勧めできる根拠は見当たりありません。