変形性脊椎症(変形性頚椎症、変形性腰椎症)とは

腰椎・頚椎などの脊椎の痛みのイメージ画像

変形性脊椎症(変形性頚椎症、変形性腰椎症)は、脊椎骨(頚椎や腰椎の骨)の間に挟まれている椎間板などが退行変性してしまう疾患です。高齢者にはよくみられるのですが、軽症の場合はとくに痛みがないことも多いです。X線を撮影すると、軟骨である椎間板の変性に伴い、骨棘(骨の突出)が形成されているのがわかります。頚椎や腰椎の変化を表す疾患名ですが、これらは年齢とともにX線で写るものでありますが、痛みを表すものではありません。X線では変形性頚椎症、変形性腰椎症がみられても痛みがなく過ごされている方が多いのです。
ただしX線でこれらの変形をとらえることは診断の助けとなる意味では大変重要です。変形の生じ方、生じている部位、をみれば、それに伴って生じている頚部や腰部の痛みのメカニズムも理解ができ、姿勢矯正などの治療方針を立てることに役立ちます。
次に実際の腰痛や頚部痛を生じる疾患をご説明いたします。

腰の痛み

腰痛を訴える人の率は最も高く、全人口では約10人に1人、65歳以上では約5人に1人が腰痛を自覚しています。整形外科を受診される患者の中で最も訴えの多い症状が腰痛です。腰痛が起こる病気はたくさんあり、内臓の病気でも腰痛が起こることがありますが、腰椎(体を支える腰骨)またはその周辺の組織・筋肉や神経に何らかの異常がおきている場合がほとんどです。
腰痛の診断は、下肢までしびれや痛みが出現する神経症状の有無によって大きく分かれます。腰痛の発症の仕方によって、急性に発症する急性腰痛症(ぎっくり腰)と、また急性の痛みが改善しきらず遷延化したり、また加齢性変化による長期的な痛みになる慢性腰痛症、に分けられます。
急性腰痛症には、筋筋膜性腰痛症や椎間板ヘルニアなどがあります。また、慢性腰痛症には、筋筋膜性腰痛症や腰部脊柱管狭窄症があります。
筋筋膜性腰痛症は腰から臀部までの筋肉由来の痛みですが、下肢(ふくらはぎや足趾)まで痛みを感じる場合には神経性疼痛をきたす腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症が考えられます。この場合は神経に生じた炎症を治めることが治療であり、消炎鎮痛剤の内服や神経ブロック注射を行います。症状が進行すると日常生活を障害する激しい疼痛や足関節や膝周囲の筋力低下(運動麻痺)を生じるため手術加療が必要となります。
また、高齢者では、腰が曲がるとともに腰部の筋力低下が進行し、歩行するとすぐに腰がダル痛い、重い、歩行時間が短くなる、直ぐに座ってしまう、といった症状が多く見られます。これはサルコペニア(筋肉の萎縮)という腰痛で近年では高齢化に伴い多く見られます。
高齢者で突然の強い腰痛が生じた場合には腰椎圧迫骨折も考えられます。通常は転倒によって生じる骨折ですが、外力が無くても骨折が生じる"いつの間にか骨折(脆弱性骨折)"も多く見られます(骨粗しょう症の項参照)。

筋筋膜性腰痛症

ぎっくり腰(急性腰痛症)の多くがこの筋性の腰痛症です。軽い痛みから非常に強い痛みまで様々ですが、神経症状がないためにいかに早く疼痛を下げ日常生活を送ることができるようになるか、が治療の目的です。早期の腰痛が残存すれば慢性的な腰痛(慢性腰痛症)に移行しやすいために、リハビリを行うことが慢性化させないためにも効果的です。

サルコペニア

前述のように75歳を過ぎたころからみられる高齢者の筋委縮に伴う慢性腰痛です。多くの場合、腰が曲がっているため、歩行姿勢が悪くなることも十分に筋力を使えない原因であり、さらに筋委縮が生じやすくなっていきます。痩せた筋力の回復は困難ですがリハビリによる筋力維持、、歩行の際にはコルセットを着用し、押し車などの歩行補助具の使用、がすすめられます。女性は50歳、男性は60歳から適度な運動やタンパク質の摂取を意識するなどの食事による筋委縮の予防も大切です。

腰椎椎間板ヘルニア

各腰椎の椎体の間には椎体同士を連結する椎間板があります。椎間板は軟骨成分で構成されているためにこれが破綻すると、一部の組織が後方の神経を圧迫するように突出します。これが腰椎椎間板ヘルニアであり、片側の下肢(臀部~ふくらはぎ、足部)の痛みが出現します(坐骨神経痛)。一般的には歩行すると疼痛が増強することが多いのですが、小さなヘルニアでは座っている方が痛い場合もあります。診断にはMRIが有用です。基本的には7~8割は消炎鎮痛剤の内服や神経ブロック注射で改善します。疼痛が強く、筋力低下が生じる場合には手術が必要となります。この場合、当クリニックでは腰椎専門医が内視鏡手術(MED)を行います。

腰部脊柱管狭窄症

加齢とともに腰椎椎間板が変化し椎間の不安定性を生じるため腰椎に変形が生じます。これらの変形は骨の突出(骨棘)や靭帯の肥厚を生じ、脊髄神経が通っている脊柱管内に突出し神経を圧迫します。これを腰部脊柱管狭窄症といいます。腰椎椎間板ヘルニアと違って両下肢に疼痛が生じることも多く見られます。歩行すると下肢が痛みとともにしびれが生じ歩行できなくなり、休憩をとる、を繰り返す間欠性跛行を生じます。診断にはMRIが有用です。治療は、消炎鎮痛剤の内服や神経ブロック注射で疼痛の改善をはかります。歩行困難の症状や疼痛が強い場合には手術が必要となります。

胸腰椎圧迫骨折

高齢化とともに骨粗しょう症の方の割合が多くなります。骨粗しょう症は、骨密度が低いだけで痛みが出現することがありませんが、容易に骨折(圧迫骨折)することで疼痛が出現します。転倒後に腰痛があれば圧迫骨折を考えますが、転倒などの外傷がなくても圧迫骨折が生じることがよくあります。また、初回受診時のX線においてほとんど変化がなく、骨折と診断されない場合も多くあります。経過を追って何回かX線撮影を行うことで変化が現れます。また、早期診断にはMRIが有用です。
また、圧迫骨折は骨癒合を得た後も腰痛が持続する(慢性腰痛症に移行)ことが多く、適切な治療が重要です(骨粗しょう症の圧迫骨折を参照)。

頚・背中の痛み

肩こりは国民病と言われるほど、多くの人が悩まされているようですが、病院に行くほどの痛みや不具合が少ないので、詳しいことは把握されていません。長時間のデスクワークやスポーツ、車の運転などで首や肩、足腰や背中の筋肉に張りや痛みを感じた経験は誰しもあると思います。このように筋肉の緊張状態が続くと、血流が悪化し筋肉への栄養補給が妨げられる一方、筋肉にたまった乳酸などの疲労物質が除去されにくいという悪循環で、だんだんと筋肉のこわばりが強くなります。これが、いわゆる筋肉のこりの原因です。肩こりの理由は、大きくて分けて二つあります。一つは肩の周辺の筋肉の問題です。成人では重さが約5kgもある頭部を支えるために、肩の周辺には僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋などおおくの筋肉が集まり、そのほとんどがデスクワークなど下向きの作業で動きにくい肩甲骨につながっております。頭部の重さは男性と女性と比べても差はありません。同じ重さをいつも、肩の周りの筋肉はじっとしていても支えているのです。そのため、なで肩で筋肉量の少ない女性は、肩こりになりやすいのです。もう一つは、全身の問題です。腰や膝、顎関節が原因となる肩こりがあります。腰や膝の痛みのために、姿勢が乱れたり歩き方が悪くなるために、肩がこることもあります。片方の顎だけで噛むことや顎関節症(耳の前の関節で噛むと音がする)のために肩こりの原因となることもあります。肩の周りの筋肉は、こうした身体のちょっとしたバランスの崩れにも影響を受けやすいのです。治療法としては、肩こりの原因が肩の周りだけの問題なのか、全身の問題なのかを正確に診断することが大事です。
また、頚椎のなかを通る脊髄神経が頚椎レベルで圧迫されることにより、腕や背中(肩甲骨周囲)に強い痛みを生じる疾患もあります。以下に説明する頚椎ヘルニアや変形性頚椎症から神経性の疼痛が生じる点で肩こり症状(頚肩腕症候群)と区別した治療が必要です。

頚肩腕症候群

いわゆる肩こり症状の総称で、頚や肩の周囲から生じる痛み、だるさのことです。神経由来の痛みではない、多くは筋肉由来の症状です。前述のように姿勢不良や同一姿勢の保持、は筋緊張を生じ肩こりの原因となります。そこに二次的な要素(寒さや運動不足による血液の循環不良、急な動作による筋線維の損傷、など)が加わって症状が出現します。寝違えなどもこれに当たります。
治療は消炎鎮痛剤による疼痛コントロールとストレッチによる筋緊張の緩和であり疼痛に応じたリハビリを行います。

頚椎椎間板ヘルニア

頚椎の骨(椎体)は7個あり、それらは椎間板という軟骨のクッションを介してつながっています。椎間板が変化し傷んでしまうと椎間板が歪んでその内容物(髄核)が後方に飛び出します。これが頚椎を通る神経を押して神経性の疼痛が生じます。この神経は背部(肩甲骨内側)や腕~手にかけて伸びているため、この領域で疼痛が生じます。まずは消炎鎮痛剤で安静(痛い姿勢を避ける)にて神経の炎症を改善させます。疼痛が続く場合には神経ブロック注射が必要な場合もあります。早めに診断、治療を開始することで疼痛コントロールがしやすくなりますが、疼痛が強くなってしまうと疼痛改善までの時間がかかります。

頚椎症性神経根症

頚椎椎間板ヘルニアと同じ神経が圧迫されるため同じ症状となります。椎間板の変性により変形性頚椎症(椎間板周囲の骨が突出)となり、骨の突出(骨棘)が神経を押さえます。
症状が発症する以前から骨棘ができているのですが、そこに頚の運動が加わって神経を刺激し発症します。特に天井を向く姿勢(頚椎の後屈)をとると疼痛が誘発されやすいのが特徴です。治療は頚椎椎間板ヘルニアと同様に行います。

頚椎症性脊髄症

発祥の機序は上記の頚椎症性神経根症と同じですが、頚椎を通る神経(頚髄)の中心部を圧迫します。脊髄神経の中心部は左右の両側の神経が集中して通っているため、両側の手足のしびれや運動障害が生じます(片側が優位な場合もあります)。手足の力が入りにくい、歩行がしつらい、字が書きにくい、箸が持ちにくい、などの症状がみられるときにはこの病態を疑いMRI精査を行います。運動障害が強くならないうちに治療を行うことが大切で、病状が進行する場合には脊髄神経の周囲を拡げる手術が必要(椎弓形成術)となります。

首から肩の痛みに関するよくあるご質問

若い頃から、長い間の肩こりですが、本当に治るのですか?

まずは、正確な診断が必要です。肩の周りの筋肉だけの問題なのか、全身の問題なのかを捉えて適切に運動療法(リハビリ)を行えば症状はやわらぎます。

マッサージをすれば一時的によくなるのですが、また、すぐに肩がこります。続けてもいいのですか?

マッサージなども局所の血行促進に効果があると思われます。しかし、すぐに肩の筋肉に負担がかかれば再燃します。できれば自分で仕事中でも簡単にできる運動を行う必要があります。理学療法士が肩甲骨(背中の貝殻骨)を上手に動かす体操など患者様にあったを運動を丁寧に指導いたします。

お風呂で温めるといいと言われたのですが?

湯船に首までつかり温めることも、肩のまわりの筋肉の血行を促進し、症状はやわらぎます。半身浴のときでも、あたたかいタオルを肩にかけて温めましょう。しかし、心臓に異常がある人は注意してください。かかりつけの内科の先生によく相談してください。

飲み薬やシップで、肩こりは治りますか?

筋肉緩和薬や消炎鎮痛剤(飲み薬、シップ)も確かに、局所の炎症はやわらぎます。それらで改善がない場合には、首から肩の筋肉に注射を打つと効果がある場合もあります。また多くの場合に運動療法を併用することで効果があがります。

首が悪いからと、言われたのですが、骨のゆがみは、なおるのですか?

もちろん、首が長く見える(なで肩が原因)患者様に、肩こりが多いのも事実です。しかし、本当の意味の肩こりが首のゆがみや首の変形だけで発生することはまれです。その場合は、神経が圧迫されて肩や手への痛みやしびれを引き起こします。むしろ、膝や腰の筋肉のこわばりや痛みが頸部にも波及している場合もあり、全身的な診断と治療が大切です。

なで肩のために、肩こりをおこしやすく、手のしびれもあるのですが?

なで肩の人は、どうしても首から肩甲骨にかけての筋肉の長さが長くなり疲れがたまりやすいのです。また、肋骨が水平よりもややしたむきかげんのため、肋骨と鎖骨とのすき間が狭くなっています。そのため、その中を通っている神経や血管が圧迫されやすく、肩こりなどの障害が起こりやすい。神経や血管の圧迫が強くなると、肩こりだけでなく、手のしびれや重だるく感じることがあり、医学的には胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)と呼びます。なで肩の人で、肩こりに悩まされているときには、首や肩、背中の筋肉をほぐす運動療法が効果的です。